ノートパソコン用のリチウムイオン電池が膨張し、本体に収まらなくなってしまいました。
というか、バッテリーの蓋のツメを変形させ、飛び出してきました。
ノギスでバッテリーの最薄部と最厚部を測ると、それぞれ9mm→17mmで、
およそ倍の厚さまで膨らんでいました。
結論から申し上げますと、リチウムイオン電池の膨張は、電池の劣化によって起こります。
膨張したり、変形したリチウムイオン電池は使わないでください。
無理に力を加えると、本当に燃える可能性があります。
また、仮に電池をセットできたとしても、電池の能力は著しく低下しています。
劣化したリチウムイオン電池は、家電量販店等で回収してもらってください。
くれぐれも、一般ゴミとして捨てないように。
雑に扱うと、本当に火事になります。※参考: モバイルバッテリーの火災が増えています! - 東京消防庁
リチウムイオン電池は燃える
私は電池に関しては素人ですが、かつて電子部品メーカーの技術職だったこともあり、
リチウムイオン電池については技術的に興味を持っていました。
実は、電池の構造は、電解コンデンサの構造と非常によく似ているのです。
私は電解コンデンサに携わっていましたので。
+極と-極があり(つまり極性があり)、間にセパレータを介して、電解液(電解質)で満たすという。
コンデンサは、電池のように電気エネルギーを化学エネルギーに変えて蓄えることはしませんが、
基本的な構造は本当にそっくりです。
リチウムイオンキャパシタってのもありますから。
目的とする機能が違うので、厳密にはいろいろ違うわけですけど。
リチウムイオン電池の危険性について、主に問題となるのは、使用している材料です。
とにかく、全体的に燃えやすい物質を使っています。
リチウムも、電解液も。
だからよく燃えるのは当たり前で、燃えないほうが不思議なくらいです。
電池として主たる役割を果たすリチウムは、非常にイオン化傾向の大きな金属です。
化学的に不安定だからこそ、電池として使うと高い性能を発揮できるわけで。
でも、リチウムは水と反応します。
しかもその際、水素を発生します。
困ったことに、電解液の多くは水を主成分としています。
電気抵抗が小さく、安価で、取り扱いが容易だからです。
ところが先の理由により、リチウムイオン電池では、水系の電解液は使用できません。
このため、有機溶媒を主成分とする電解液を用います。
この有機電解液も、可燃性の液体です。
リチウムイオン電池が膨張する原因
リチウムイオン電池を含む二次電池では、
可逆反応を利用することで、充電と放電を繰り返すことができます。
でも、熱力学第二法則じゃないですが、可逆といっても、完全に元通りにはなりません。
充放電の過程で、わずかであっても、意図しない化学反応が必ず発生します。
工業製品では、望まない化学変化を「劣化」と言い、有益な化学変化を「自己修復」と言ったりしますが、
「腐敗」と「発酵」みたいなもんで、完全に人間側の都合です。
特に、電池にとってイレギュラーな使われ方をすると、劣化は急速に進行します。
リチウムイオン電池で特に問題となるのは、過充電と過放電。
このうち過充電に関しては、リチウムイオン電池は何重にも安全対策がとられているので、
よっぽどのことがない限りは大丈夫です。
粗悪なリチウムイオン電池だったり、メーカー指定でない充電器を用いたりしない限り。
一方、過放電についても同様に対策がとられていますが、電池には自己放電があるので、
放っておくと、メーカーの想定以上に放電が進んでしまう可能性があります。
つまり、過放電は、ユーザーの取り扱いによって起こりうるのです。
実際、冒頭のリチウムイオン電池は、
何年も使っていなかったノートパソコンを使用した際に膨張したものです。
過放電が起きると、有機電解液が分解され、炭化水素が発生します。
そして、これは不可逆反応です。
化学反応の詳細については、下記報告書が参考になります。
リチウムイオン電池の劣化メカニズムの解明 - 電力中央研究所
また、過放電に至らずとも、通常の使用範囲でも炭化水素は発生します。
充放電を繰り返し、劣化させたリチウムイオン電池内部に発生したガスの組成変化を実測したものが、
下記ページのグラフです。
電池の容量維持率が低下するにつれて、炭化水素が発生してきているのがわかります。
容量維持率60%までのグラフなので、リチウムイオン電池としては寿命に至る前の状態でこれです。
※容量維持率が50%以下になると寿命とするのが一般的。
液体が気体になると、体積がケタ違いに増えますから、
電池内部の圧力が上昇し、見た目にも電池が膨らんできているのがわかるようになります。
特に、最近の薄型化したリチウムイオンポリマー電池では、この傾向が顕著です。
従って、リチウムイオン電池が膨張するのは当たり前。
使っているうちに膨らんでくるのは、リチウムイオン電池の仕様とも言えます。
リチウムイオン電池は、通常の使用範囲でも徐々に膨張していきますし、
過放電をやらかすと一気に膨張します。
ちなみに、炭化水素ってのは、メタン、エタン、プロパンとかで、燃料になるほどよく燃えます。
電池が膨張したからといって、無理に力を加えると、電極がショートして発火する恐れがあります。
注意してください。
どーでもいーはなし
一次電池、いわゆるマンガン電池やアルカリ電池の液漏れも、似たようなものです。
未使用であれば、電池の使用期限を過ぎていても液漏れは起こりにくいですが、
使い切った電池を放置しておくと、まもなく液漏れします。
この場合も、過放電による水素等の発生が内圧の上昇を招くからです。
電池を電気製品の中に入れっぱなしにしておくと液漏れしやすいのも、同じ理由です。
外部回路によって、放電が促進されますので。
リチウムイオン電池の劣化を防ぐ
リチウムイオン電池をまったく劣化させないことはできませんが、急速な劣化を防ぐことはできます。
よく、「機械は使わないと壊れる」と言いますが、これは電気製品についても同様で、
電気製品は通電しないと壊れます。
というのも、電位差がある状態を前提に設計されているからです。
ここで挙げた電池の過放電による不可逆反応についても、
本来は電位差があるべき所が同電位だったり、あるいは逆転していたりするために、
異常な化学反応が起きてしまうのです。
これを防ぐには、常にある程度の電位差を保っておくこと。
つまり、リチウムイオン電池使用機器を穏やかに使い続けるのが一番なわけですが、
もし長期間使わないのであれば、定期的に充電しておくのが効果的です。
たとえばAppleは、バッテリーを50%充電された状態で保管し、
6ヶ月ごとにバッテリー残量が50%になるよう充電することを推奨しています。
Appleノートブックコンピュータとバッテリーの保管方法 - Appleサポート
ただ、ほとんど使わない機器のリチウムイオン電池を、ここまで管理できる人はいないと思いますので、
ある程度の充電残量を保っておくことだけでも注意してもらえれば、
かなり電池の劣化を防げるのではないかと思います。
要は、過放電が致命的なので。
ちなみに、リチウムイオン電池をフル充電状態で放置するのも、あまりほめられたものではありません。
エネルギーの高い状態、つまり不安定な状態が続くからで、
しかも高温環境にさらされると、これまた不可逆反応が発生しやすくなり、
リチウムイオン電池の劣化が急速に進みます。
化学反応は温度依存ですから。
電池内部でガスが発生することにより、内圧が上昇、電池が変形し、最悪の場合ショートして発火します。
ドライブレコーダーが発火してたのも、おそらく同様の原因と思われます。