無線LANで使う2.4GHz帯は、他の電気製品でも使われる周波数帯なので、
しばしば電波干渉が問題視されます。
でも、無線LANの電波干渉で最も問題になるのは、他の無線LAN機器です。
同じ周波数帯、同じチャンネルで常時接続しているのは、同じ無線LANだからです。
ノートパソコン、ゲーム機、スマートフォンと、無線LANの使用機器が増え続けるに伴い、
無線LANアクセスポイント(親機)の数も増え続けてきました。
その結果、無線LANの通信が不安定な環境が、いたるところにできました。
そのような環境下では、無線LANの接続が途切れたり、最悪の場合は接続設定すらままなりません。
無線LAN機器は、免許がいらない無線機です。
製品が使いやすくなったとしても、無線LANの本質的な仕組みは変わっていないのです。
つながりにくくなった2.4GHz帯
無線LANにも様々な規格がありますが、
おそらく多くの人は、2.4GHz帯を使っていると思います。
主に関係するのは、以下の3規格。
IEEE802.11b | 無線LANで最初に普及してきた規格。 2.4GHz帯を使用。 |
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IEEE802.11g | 「IEEE802.11b」の上位互換で、理論値54Mbpsまで速度を向上したもの。 同じく2.4GHz帯を使用。 |
IEEE802.11n | これ自体は周波数を規定するものではありません。 ベースとなる規格があり、それを2重、3重にして高速化しようというもの。 実際にアンテナが2本、3本と生えてたりします。 |
無線LANに特にこだわりがなければ、これら2.4GHz帯を使っているはずです。
2.4GHz帯は、対応する製品が多く、製品も安価で、障害物にも強いです。
これだけ聞くといいことづくめですが、狭い周波数帯の割に使用機器が増えすぎました。
今や、一家に1台無線LANアクセスポイントがあるような状況です。
実際に、無線LANの通信が不安定だと言われて行ってみると、
電波を拾えるアクセスポイントが多数検出できます。
ほぼすべて、2.4GHz帯のアクセスポイントです。
2.4GHz帯のチャンネルは電波干渉する
「IEEE802.11b/g/n」では、一般的に1~13チャンネルのいずれかを使用していますが、
実は、独立した周波数帯で使えるチャンネルは3つまでなのです。
つまり、無線LANクライアント(子機)の側から見て、
3つを超えるアクセスポイントが検出されたら、電波干渉が発生しているということです。
通信が不安定になるのも、当たり前です。
※念のため補足しておきますが、子機の数ではなく、親機の数です。
具体的に、各チャンネルがどの周波数を使っているのかを図示します。
2.4GHz帯の無線LANのチャンネルでは、周波数がかなり重複していることがわかります。
たとえば、1、2、3チャンネルを使っているとすると、
独立した別の周波数帯になっていないどころか、実に半分以上が重複していることになります。
それぞれ同一色で表したチャンネル同士は、周波数帯が互いに独立しており、電波が干渉しません。
1、6、11とか、そのような組み合わせでチャンネルを選ぶのが理想的だといえます。
しかし、3つを超えるアクセスポイントが検出されるような状況では、
電波干渉しない、空いているチャンネルを選ぶことはできないのです。
さらに、「IEEE802.11n」のデュアルチャネルを有効にすると、
2.4GHz帯ではほぼ確実に電波干渉が発生します。
単純に、チャンネル2つ分の周波数帯を1つのアクセスポイントが使用するからです。
デュアルチャネルの時点で、2.4GHz帯の帯域の半分を占有することになります。
14チャンネルだけ離れていますが、これは電波法に起因する日本独自の規格です。(Wi-Fiが普及する前。)
1、6、11、14と組み合わせれば、電波干渉することなく4チャンネルまで使えそうです。
でも、14チャンネルは「IEEE802.11b」の中でも古い規格で、現在では対応していない機器がほとんどです。
さらに、「IEEE802.11g/n」では14チャンネルは存在しないので、
重複なく使えるチャンネルは3つまでと書いたのです。
14チャンネルは、例外かつ特殊で、消えゆくものだと思ってください。
電波干渉しにくい5GHz帯
「IEEE802.11a/ac」は、5GHz帯を使用します。
以下、5GHz帯の各チャンネルの周波数を図示します。
まず、5.2、5.3GHz帯。
続いて、5.6GHz帯。
なぜ図が2つあるのかというと、周波数が飛び地になっているから。
先ほどの2.4GHz帯の図と同様、10MHz間隔で目盛りを書いてありますが、
一見しただけで、5GHz帯のほうが幅広い周波数を扱えることがわかります。
具体的には、2.4GHz帯で使える周波数の範囲が約80MHzなのに対して、
5GHz帯では約380MHz、およそ5倍弱もの差があります。
結果として、独立した19のチャンネルを使えます。
図示してきたように、規格によってチャンネルの割り当て方が違うため、
2.4GHz帯の最大3チャンネルに比べ、圧倒的に多いチャンネル数を扱えるのです。
独立して使えるチャンネル数が多く、しかも使用者が少ないことから、
5GHz帯では、まず電波干渉することがありません。
少なくとも私の周りでは、5GHz帯で電波干渉が問題になったことはありません。
かつて、無線LANの接続がひどく不安定だと言われ、ある事務所へ行った時、
2.4GHz帯のアクセスポイントが8つほど検出されたことがあります。
そこで、5GHz帯への切り替えを提案、実施したことがあるんですが、
以後、無線LANの接続が切れるようなことは完全になくなったそうです。
2.4GHz帯 | 5GHz帯 |
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これは当方環境において、2.4GHz帯と5GHz帯のアクセスポイントを検出したものです。
※クライアント側のドライバで切り替えています。
違いは一目瞭然です。
必ずしも、表示されているSSIDの数がそのままアクセスポイントの数というわけではありませんが、
こうした傾向にあることは間違いありません。
5GHz帯は2.4GHz帯よりも障害物によって減衰しやすいため、
ノイズとなる外からの電波は進入しにくくなります。
そのうえ前述のように、5GHz帯のほうが帯域も広く、チャンネル選択の自由度も高いのです。
5GHz帯のデメリットは、メリットの裏返しで、障害物に弱いこと。
これは5GHz帯の電波の性質によるものなので、どうしようもありません。
さらに、対応機種が少ないのと、価格が若干高くなること。
とはいえ、一時期に比べればかなり手頃にはなってきていますが。
また、5GHz帯で通信するためには、
無線LANアクセスポイント(親機)、クライアント(子機)共に、5GHz帯に対応している必要があります。
実は、現行製品でさえ、5GHz帯には対応していないことがあります。
製品価格を抑えるためです。
パソコンでは、機能を拡張することもできるかもしれませんが、
拡張性のないモバイル端末の場合は、2.4GHz帯で通信せざるを得ないかもしれません。
無線LANで最も普及しているのは、2.4GHz帯です。
でも、2.4GHz帯では電波干渉があれば通信速度は大幅に低下しますし、
接続不安定で切断されたりしたら、通信機器としての意味がありません。
もともと2.4GHz帯は、電子レンジやコードレス電話等の電気製品一般に用いられるものだったので、
無線LANのように常時接続で大量の情報を通信するには帯域が狭すぎるんですよね。
2.4GHz帯を使い回すのにも限度があると思います。