無線LANの接続が突然切れたりすると、使っている機器のせいにしてしまいがちですが、
私の知る限り、ほとんどの場合において、機器の不具合でつながらないわけではありません。
もし製品によってつながったりつながらなかったりするなら、
Wi-Fiって何のためにあるのか、存在意義がわからなくなります。
かといって、ユーザーの設定が間違っているわけでもないです。
一度でもその無線LAN機器を使って通信できたことがあるのであれば、
設定が間違っているから接続できないような、初歩的な問題とは違います。
無線LANのトラブルが理解しにくいのは、電波が目に見えないからです。
しかも、たいてい切実なのはそこです。
ほとんどの原因は、無線LANを使用する環境にあります。
特に、無線通信に関する問題を考える場合は、
無線機器単体ではなく、使用環境を含めて総合的に判断する必要があります。
環境によって、問題点が違うからです。
この製品を使ってこういう設定にしておけばいい、というわけにはいきません。
通信で重要なのはS/N比
根本的な話ですが、通信において重要なのはS/N比(シグナル/ノイズ比)です。
電波強度ではありません。
受信している電波強度だけで無線LANの通信状態を判断するのは、間違っているのです。
もちろん、電波を受信できていなければ通信しようがありませんが、
アンテナが立っていれば確実に通信できるわけでもないです。
必要条件ですが、十分条件ではないというか。
S/N比とは、ノイズに対する信号の比率のことです。
無線LANの電波は、信号をやりとりするために使われています。
弱い電波しか受信していなくても、それに対するノイズが小さければ、
信号を正しく受け取ることができます。
逆に、強い電波を受信していても、それに対するノイズも大きければ、
何が本来の信号なのか、判別できなくなってしまいます。
静かな部屋なら小声で十分伝わりますが、
うるさい場所だと大声でしゃべっても何言ってるのかわからなかったりする。
そんな感じ。
ところが、設定を機械まかせにしていると、
接続する優先順位を電波強度で決めてしまうことが多いんです。
具体的には、障害物の影響を受けやすい5GHz帯の「IEEE 802.11a/ac」よりも、
比較的障害物に強い2.4GHz帯の「IEEE 802.11g/n」で接続してしまう。
2.4GHz帯の無線LANは、各チャンネルの周波数が重複しているうえに使用者が多いので、
ノイズの影響が無視できません。
詳細は、下記ページにまとめてあります。
近くにある他の無線LAN機器の発する電波が、こちらの無線LAN機器にとってのノイズとなり、
最悪の場合、通信できなくなります。
確かに、2.4GHz帯のほうが電波は遠くまで届きますが、
それに対するノイズレベルも大きくなってしまうことが問題なんです。
従って、都市部のマンションよりも、田んぼの中の一軒家のほうが、
無線LAN環境は良好であることが多いはずです。
都会のほうが情報は多いけど、ノイズも多いというのは、
あらゆる面でそうかもしれませんが。
電波強度で競争するのはやめるべき
無線LANで使っている2.4GHz帯、5GHz帯は周波数が高いので、障害物の影響を強く受けます。
1kHz前後のAMラジオのように、どこでも受信できるようなものではありません。
2.4GHz帯を使う「IEEE 802.11g」が障害物に強いってのも、あくまでも相対的な話で、
無線LAN全般が障害物は苦手です。
だからといって、無線LANの電波出力競争に走るのは、個人的には賛同できません。
そもそも、無線LANの接続が不安定になる原因は、電波の受信状態がよくないからです。
電波の出力が弱いからではありません。
前述のS/N比で考えてください。
離れた部屋との通信に無線LANを使用するのは、本来の役割ではありません。
無線LAN最大のメリットは、電波の届く範囲ならどこでも使えるという、場所の自由度の高さにあります。
だから、モバイル端末との相性は抜群です。
スマートフォンの普及が、無線LANの普及を後押ししている部分は大きいと思います。
メーカーは当初から「見通し100m」とか言ってましたし、
あくまでも、同一空間内での使用を念頭に置いているわけです。
無線LANの利便性を考えると仕方なのないことではありますが、
無線LANに不得意なことをさせようとするあまり、ハイパワー競争に走ってしまったのは不幸なことだと思います。
繰り返しますが、重要なのは、発信力ではなく、受信しやすさです。
無線LAN環境を不安定にしたくないのであれば、ひたすら電波強度で競争するのはやめましょう。
近所迷惑です。
隣で鳴ってるオーディオがうるさいからテレビのボリュームを上げて、
今度はテレビがうるさいからオーディオのボリュームを上げて、
ってやってるのと同じです。
お互いにうるさいだけで、聞き取りにくい状況は何も変わってないという。
対応策
今現在、無線LANの接続が不安定だとして、これを安定させるためにどのような方法があるか、
具体例を挙げてみます。
- 5GHz帯を使う
- 無線LANアクセスポイントの場所を変える
- PLCの併用
以下、個別に説明します。
5GHz帯を使う
無線LANの電波干渉問題に対して、5GHz帯の効果は絶大です。
チャンネルの割り当て方が違うからです。
2.4GHz帯でも、空いている無線LANチャンネルを探して変更しようという考えはわかりますが、
チャンネル干渉のページでも書いたとおり、
2.4GHz帯では、空いている周波数帯を選べないのが実状なんです。
5GHz帯への切り替えには、無線LAN機器側も対応している必要があります。
無線LANアクセスポイント(親機)、クライアント(子機)共にです。
具体的には、「IEEE 802.11a」「IEEE 802.11ac」対応と書かれた製品が、5GHz帯を使うことができます。
5GHz帯は、2.4GHz帯に比べて障害物に弱いのが欠点ですが、
逆に考えると、外からのノイズの影響を受けにくいとも言えます。
無線LANアクセスポイントの場所を変える
無線LANアクセスポイントの場所を変えるのは、原始的なようで、意外に効果が大きいです。
無線LANクライアントの場所は、そこでパソコンを使用していたりするので、
変更できない場合が多いでしょう。
でも、無線LANアクセスポイントの場所は、通信状態さえ良ければどこでもいいはずです。
壁面だろうと、廊下だろうと、階段だろうと、
通信状態のいい場所に動かせるのであれば、そうすべきです。
必要なのは、長めのLANケーブルのみ。
通信機器を交換するのに比べれば、コスト的にも安くて済みます。
PLCの併用
無線LANは便利ですが、万能ではありません。
環境によっては、無線LANの使用が適さない場合もあります。
たとえば、1階から2階へ、直線距離が長く、間に壁を複数枚挟んでいるような状況では、
無線LANの電波が弱くなって当たり前で、最悪届かなくても仕方ありません。
だからといって、製品の電波出力ばかりを追い求めるべきでないというのは、これまでにも書いてきたとおりです。
そこで、PLCというものがあります。
ひとことで言うと、コンセント用の配線を、LANケーブルの代わりに使ってしまう装置です。
詳細は、下記ページにまとめてあります。
PLCは、無線LANではありません。
でも、壁で隔てられ、離れた部屋とLAN環境を構築する目的においては、
無線LANよりも、PLCのほうが適しています。
PLCアダプタからパソコンに直接LANケーブルを接続して通信できるのはもちろん、
PLCと無線LANを併用することにより、違う階はPLC、同じフロアは無線LANという使い分けも可能です。
さらに、前述の無線LANアクセスポイントの設置場所自由度が一気に高まります。
LANケーブルを引き回さなくても、
コンセントのある場所なら、どこでも無線LANアクセスポイントを設置できるのです。
以上、すべて自分で実践してきて効果があったものです。
無線LANにおいて特に注意が必要なのは、「電波強度≠安定性」ということ。
個人的に無線LAN中継器をおすすめしないのは、このへんの理由からです。
そりゃ、中継器使えば電波強度は高くなるかもしれませんが、
それと通信の安定性とは別の話です。