私はこれまでにいろんなお宅にお伺いして無線LAN(Wi-Fi)の設定をしてきましたが、
ほとんどの利用環境において、間に遮へい物を挟んでいます。
壁を挟んで隣の部屋とか、1階から2階とか、離れの小屋とか。

特に厄介なのが、1階-2階間の通信です。
ギリギリ通信できるかできないかって状況におちいることが多く、
しかも実際にその場所で動作確認してみないとわからないという。
それなのに、お客さんからは1階-2階間の通信を要求されることが非常に多いのです。
そもそも、お客さんは1階-2階間で通信するために無線LAN製品を買ってたりするわけで。

メーカーとして無線LANの通信距離はどれだけのものを考えているのか、
バッファローの営業さんに聞いたことがあるんですが、見通し100mとか言ってました。
でも現実には、100m先まで見通せる電波暗室みたいな環境はないわけですよ。
ほぼ確実に遮へい物がありますし、常にいろんな電波が飛び交っています。

そこで、遮へい物がある前提で、無線LANの通信距離がどれほどのものか、
実験して調べてみました。

実験方法

実験場所には、実家が碁盤の目のような間取りになっていたので、これを利用しました。
ごく一般的な木造2階建て住宅です。
ただし、1階と2階がほぼ同じ間取りになっているのが特徴的です。
このことで、部屋の位置関係を座標で表せます

正面玄関から見て、左右方向をX、奥行き方向をY、上下方向をZとし、
アクセスポイントからの距離を示します。
数字が増えるごとに、壁や天井/床などの遮へい物が増えると考えてください。

電波の性質は周波数によって異なるので、
2.4GHz帯と5GHz帯、それぞれの通信速度を同じ場所で計測することによって比較しました。
2.4GHz帯と5GHz帯の帯域幅を合わせるため、双方デュアルチャネル(帯域幅40MHz)で通信しています。

住宅地なので、周りの家にも複数の無線LANアクセスポイントがあり、検出できる状態です。
つまり、電波干渉の影響を受けます。※特に、2.4GHz帯。

無線LANルーターはWR8700N、無線LANクライアントは「Intel Centrino Advanced-N 6205(ノートパソコン内蔵子機)
無線LANルーターに有線LANで接続したパソコンを通信先としてテストしています。
通信速度測定には「LAN Speed Test」を使用。

結果と考察

実験結果をグラフと共に示します。
測定条件をクリックすると、生データのスクリーンショットを表示します。

測定条件 通信速度[Mb/s]
(0,0,0) 2.4GHz 139
(0,0,0) 5GHz 160
(1,0,0) 2.4GHz 83
(1,0,0) 5GHz 76
(2,0,0) 2.4GHz 47
(2,0,0) 5GHz 9
(2,1,0) 2.4GHz 47
(2,1,0) 5GHz 1
(0,0,1) 2.4GHz 118
(0,0,1) 5GHz 141
(1,0,1) 2.4GHz 78
(1,0,1) 5GHz 65
(2,0,1) 2.4GHz 52
(2,0,1) 5GHz 4
(2,1,1) 2.4GHz 22
(2,1,1) 5GHz 通信不能
※Readでの比較。

遮へい物に強い2.4GHz帯

全体として言えるのは、2.4GHz帯のほうが遮へい物に強いです。
まぁ、これは測定する前から一般論としても実感としてもわかってたことですが。
でもこうして改めて違いを見せつけられると、納得するしかないです。

5GHz帯では、壁を2枚挟むと極端に速度が低下しました。
数値を見ただけではイメージしにくいかもしれませんが、
通信速度が10Mbpsを下回ると、途端に接続が不安定になります

一部の部屋ではあまりにも通信が不安定で、いつまでたっても計測が終わらないため、
部屋の中で通信できる場所を探して測定しました。
ある意味不正をしています。
実質、5GHz帯の使用に適しているのは、隣接した部屋までです。

通信が安定している5GHz帯

同じ部屋や隣接した部屋など、ちゃんと通信できる場所でなら
5GHz帯のほうが高速で安定した通信を行えます

実は、先の結果は3回以上測定したものの中央の値で代表しています。
なぜそんなことをしたかというと、2.4GHz帯の通信速度のばらつきが大きかったからです。

明らかに、2.4GHz帯のほうが不安定です。
遮へい物や距離の影響を調べたかったのに、電波干渉の影響が無視できないぐらい大きいです。
実験中、極端に通信速度が遅くなったような異常値は、排除しています。

隣の部屋より、上下の部屋のほうが速い

これは、無線LANを使用する建物の構造にもよります。
ただ、今回実験した木造2階建て住宅では、
隣の部屋よりも、上下の部屋での通信のほうが速い傾向がありました。
特に、5GHz帯ではこの傾向が顕著で、
5GHz帯の通信速度が優位だったのは、同じ部屋と上下の部屋だけです。

理由は、ある程度推測できます。
小さい頃に実家を建てる過程を見ていたからです。

無線LANにとって、遮へい物はどれも一様に悪影響を及ぼすわけではありません。
遮へい物の材料の影響を強く受けます
特に、金属は最悪です。
電波を反射するからです。

さて、今回の木造2階建てでは、遮へい物になっている壁と、天井/床の材料の違いが問題になります。
特に、私は断熱材の影響が大きいと考えています。
床下には、発泡スチロールのような板状の断熱材が使われているのに対し、
壁の中には、グラスウールを主体とした断熱材が使われていました。
グラスウール自体はそれほど電波をさえぎるものではないと考えますが、
問題は一緒に使われていたアルミ蒸着フィルム
赤外線を反射するので遮熱効果が高くなるわけですが、無線LANの電波まで反射してしまいます。

おそらく、一般的な住宅環境において、無線LANの障害になる可能性が高いのは、
断熱材に使われているアルミ
だと思います。
この遮へい物の材料の違いが、そのまま通信速度の差となって現れたと考えられます。

斜めの位置関係の部屋には向いてない

無線LANは、斜めの位置関係の部屋と通信するのには向いていません。
単純に、遮へい物の数が増えるからです。

もともと無線LANは、同一空間内で場所の制約を受けずに使えるのがメリットだったわけで、
離れた部屋と通信するために作られたものではありません
日本の住宅環境だと、離れた部屋との通信に無線LANを使うのが便利だったから、
結果的にそうなってしまっただけで。
苦手な役割を任せられている状況はあると思います。

隣接しない部屋で、しかも斜めの位置関係だと、2.4GHz帯しか使いものになりません
2.4GHz帯でも速度は低下しますが、通信自体は問題ありませんでした。
5GHz帯だと、部屋の中で通信できる場所を探してやっとという感じで、
接続が不安定すぎて、実使用には耐えられないレベルです。

どうしても離れた部屋と通信しなければならないのなら、
無線LANよりもPLCのほうが適している場合があります。
というか、客先で無線LANではどうにもならなかった場合、私はまずPLCを提案しています。
通信状態の悪い無線LANに比べれば、PLCのほうが速度が出ますし、何より通信が安定しています。
PLCも電気製品のノイズの影響を受けますが、それでも無線と有線の差は大きいです。

どうしても無線LANで離れた部屋と通信しなければならないのなら、
少なくとも5GHz帯は選択肢から外れます
高速通信をうたった製品のほとんどは、5GHz帯での値を前面に出しています。
5GHz帯のほうが帯域幅が広いので、「IEEE 802.11ac」みたいな高速通信ができるわけで。

比較的遮へい物に強い2.4GHz帯は、その成り立ちから帯域幅に制限があるため、
5GHz帯ほど高い通信速度は出せません。
それでも、離れた部屋と無線LANで通信したいなら、2.4GHz帯の性能を重視して製品を選ぶべきです。